2009/02/19

Cave Dive

Cave dive というダイビングがある。
水中の洞窟に入っていくダイビング。頭上に水面があるわけではないので、普通のダイビングよりも上級向けになる。ケーブダイバーになるためには特別なトレーニングを受けないといけない。

モスキートダイビングに今シーズンからテクニカルダイビングのコーナーができた。普通の空気よりも酸素のパーセンテージを上げたナイトロックス。それにさらにヘリウムを加えたトライミックス。ダブルタンクを使って80Mも100Mも行く減圧ダイブのディープダイブ。同じくレックダイブ、ケーブダイブ。そして、吐いた息が泡になって出ない器材を使って潜るリブリーザー。

このコーナーには今シーズンいつもJohanがいる。
飲まない、吸わない、超健康志向のスウェーデン人。体中に入っているタトゥーの一部に「健康な体に健全なたましいは宿る」って、日本語で入ってる。

そのJohanがはじめから私のカメラに目をつけて、一緒にケーブに行こうって、ずっと誘われてた。
でも、最近ちょっと狭いところの苦手な私は「そうだねー。」なんていいながらこそこそ逃げてた。
のが・・・、Johanが国に帰る前々日にとうとうつかまった。
どこに行くか、何をするか、細かく計画を立てられてしまって、本当に行くことに・・・。

Johanはすごくいい人で、モスキートのスタッフだけじゃなく、ほかの店の人まで、いつかJohanと一緒にファンダイブに行きたいと思ってたはず。
それなのに、一番逃げ回ってた私だけが行くことになった。準備してる段階で、明らかにみんなの目が「うらやましぃーー。」って言ってる。
ごめんなさい、私で。あんまり乗り気じゃないんだけど・・・なんて言ったら怒られそうな雰囲気。

Johan曰く、選んだケーブは広いからなれてなくても大丈夫。一番奥まで行かないし、怖かったらいつでも引き返す。
そうは言ってもやっぱりケーブはケーブでしょ?
でもだめだったら出てくればいいんだから、いいか。
ってことで、二人で5本のタンクを持って出かけた。

私が仕事以外でダイビングに行くなんてことは最近ないから、Wolleが様子を見に来た。トロリーに山のようになった器材を見て、
一体何人で行くの?
二人だよ。
どれだけ深く行くの?
たぶん深くて20Mくらいかな。
どうして5本もタンクを持っていくの?
確かにWolleにとっては見たこともない装備だから、びっくりしてた。
3本は予備だよ。ケーブは器材に問題が起きてもすぐに水面に上がれないから。
ふぅーん。

Johanがダブルタンク。私は普通にシングル。スペアの小柄なタンクが2本。で、合計5本。

ロングテールボートでトンサイベイの外側に出る。
ピピにはいくつかのケーブがあって、ここはスネークケーブと呼ばれる、トンサイベイから一番近いケーブ。スネークなんて名前がついてるんだから、きっと中はクネクネしてるんだと思う。

水に飛び込んで、まずはJohanが5Mで器材チェックするのを撮る。
そしてディープダイブに見せかけるためにJohanが一人で深度を下げる。私は上げる。後から映像を見たら、ものすごく深くに降りていったように見えるけど、実は25Mくらいまでしか行ってない。

それからケーブへ。
少し泳いでスネークケーブの入り口は18Mくらいの深度。
壁にぽっかり、そして大きく穴が開いてる。思ってたよりもずっと大きい。これならそれほど怖くないかも・・・。

Johanがケーブの中へ引いていくラインをケーブの入り口付近で結わえる。万が一迷ったときの道しるべだ。
まぁ、今日はそんなに奥まで行かないんだけど、ビデオのためと私のため。
この、ラインを引いて中に入っていく作業にも沢山のルールがある。
ラインはピンと張っていること、終わりのクリップはケーブの入り口に向いていること、できるだけ壁沿いに張ること、等々。
こりゃ、Johanみたいに規則正しい人にしかできないかも・・・。私が引いたラインに沿っていったら、余計に迷ってしまいそう。

Johanが奥に向かっていくのをビデオにとって、真っ暗で何も見えなくなる直前くらいでJohanを待つ。

振り返るとケーブの入り口が見える。
真っ暗なケーブにそこだけ光った青色が映える。

ケーブの中は、流れもなく音もなく、ただ暗闇と入り口の青だけがひっそりと存在していた。
ケーブに入る前は水もそれほど透明ではなかったのに、中は驚くほど澄み切っている。私がむやみにフィンを動かして中を汚してしまわないように、Johanを待つ間私はただ、中層に浮いていた。
動けないんじゃない。私だってダイバーの端くれだから、周りを巻き上げずに動くこともできる。
ただ、動きたくなかった。この静けさと美しさを一人で、無重力で感じたかった。

モルディブで働いていたころ、青い青い水の深いところで、静かに息をしていたときの感触を思い出した。
水中での過呼吸の問題が始まる前、私は、その静けさと美しさをどれほどか愛していただろう。もう、あれを感じることは二度とできないのだと思っていた。
それと同じといっても差し支えない美しさと静けさがケーブの中にはあった。
私の愛する静けさ。

Johanは知っていたんだろうか。前に過呼吸のことを少し話したことはあるけど。

数分すると、Johanが戻ってくる。
ラインに沿って奥へすすむ。私が怖がっていないかどうか確認するために私の体の一部を常に触っている。まるで私が体験ダイバーにするみたいに。・・・。そうかこれ私にとって、体験ケーブダイブなんだ。

私は自分でも驚くほど落ち着いていた。そして、好奇心の塊になっていた。
怖くてドキドキして、途中までしかいけないかもしれないと思っていたのに。
こんなにわくわくしているのは久しぶりだ。Johanは数十メートルだけラインを張ってくれていた。うわぁー、本当はもっと先までいきたいっ。

ラインの終わりまで泳いで、その後は入り口に向かって泳ぐ。
入り口の青が少しずつ大きくなっていく。ビデオをまわしながら、私は自分自身の目でそれを見たくて、何度かビデオを止めた。
映像としてはいいものにならないことを覚悟しながら。それでも、私は自分の目でその美しさを見たかった。

入り口に近づくにつれて、青はどんどん大きくなる。
そして最後には、その青が私を飲み込んだ。
ケーブの外。

まるで数分間の短い夢を見ていたような陶酔感を感じる。

この後どうする?って聞くJohanにもうひとつのケーブに行きたいと頼む。

2本目のケーブも1本目と同じくらい素敵だった。

どうして今までJohanに誘われたときに一緒にダイビングに行かなかったんだろう。そうしたら、もう何本か一緒にもぐれたかもしれないのに。

Johanはすごくいいインストラクターでもある。
ダイブの後、ボートに戻って、まずJohanが言ったのは、「君はケーブの中でとても落ち着いていたね。本当にいいダイバーだ。君の精神力はものすごく強い。君とまた一緒に潜れたらいいな。」
過呼吸の問題のある私にとって、これ以上うれしい言葉があるだろうか。
それよりも、私のほうが、もう一度一緒に潜らせてください、って頼まなくちゃいけない。

いつかまた、必ず、事前の不安も恐怖もなしに潜りたい。できたらJohanと一緒に。
また、いつか、過呼吸の問題なしに深さにも、流れにも対応できるときがくるんだろうか。きっと来るはず。今でも少しずつ問題なくなってきてるんだから。

急いだりしないけど、あせったりしないけど、ゆっくり、私が前に楽しむことのできた強い流れや、深さにいつか戻ることができるといい。
これはちょっと中毒かも・・・。まぁ、だから飽き性の私でもダイビング続けてるんだけど・・・。

次回はいつになるんだろう。
Johanには本当にお礼が言いたい。

その日と翌日をかけて作ったビデオは、とてもいいものになって、Johanはとても喜んでくれた。

0 件のコメント: