2017/04/01

いざアンダマンへ



いつか一度は行ってみたいと思っていたアンダマン諸島。とうとう足を踏み入れた。

「アンダマン」という名前は日本人にとってそれほど親しみのある音ではないと思う。が、私が長いこと潜っていたピピ島の海はアンダマン海のすみっこ。

今でこそ大量の観光客に踏みにじられてしまったピピ島の海は、私が初めて潜ったころ、どこを泳いでもリーフがキラキラと輝いていた。そしてそのピピ島よりもダイナミックかつ透明度も高いダイビングができたのがシミラン諸島・・・これはプーケットの北西にある。そしてシミラン諸島をさらに北上するとブルマバンク・・・ミャンマーの海域に入る。そしてそれをさらに北へ上るとアンダマン・ニコバル諸島だ。

以前は旅行者に解放された地域でなかったせいもあり、観光にしてもダイビングにしても未だ情報が少ない。

アンダマンという名前にはなじみが薄くても、ニコバルという地名なら知ってるという人は多いかもしれない。第二次大戦中日本軍が占領していたインド洋の諸島である。

このニコバル諸島とアンダマン諸島の一部は今でも入島に特別な許可が必要になる。インドという国に属しているにも関わらず、インド人さえ一般には入島を許可されていない。




さてはて、私にとって20年ぶりのインド。長いこと思い描いていたアンダマン諸島に入るということよりも「インドに入る」ということのほうが私の気を引き締める。
なんといってもバックパッカーの旅行自体が久しぶり。フィリピンをすでに1ヵ月うろついたとはいえ、純然たるマイペースのWolleと一緒に、一体インドでどうなることやら。
最悪、空港を降りた町で数日足踏み、という可能性もある。私の記憶では、移動のためのチケットを取るのにも相当なエネルギーが必要なはずだ…。


アンダマン諸島に行くには、まずインド本土に飛ばなくてはならない。ボンベイ、カルカッタ、と選択はいくつかあるうち、私たちはカルカッタ経由で飛ぶことにした。行き先はPort Blair。この空港、International Airportと称しているが、実際はインド国内にしか出入りできない。

Port Blairの空港で、インドに入国するときに入国スタンプを押してもらうのとは別個に、アンダマン諸島入島のスタンプを受ける。このスタンプを受けてから1ヵ月、私たちはアンダマン諸島に滞在できる。アンダマンビザだ。

インド入国のビザは自国でなり、インターネットを通してなり、あらかじめ取っておかなければならないけれど、このアンダマンビザは到着した人はその場で必ず取れる。料金もかからない。要は長期滞在者を増やさないためのビザかと思われる。

私たちの飛行機から降りた外国人は私たちを含めて4人。小さな飛行機とは言え、ほかの乗客はみんなインド人だ。
これは数日たってから気が付いたことだが、アンダマンはお金持ちのインド人のリゾート地らしい。
家族連れやカップルのインド人が何をするにも我先にと突進してくる。20年前の私の記憶と比べると随分と穏やかだし、リラックスしているけれど、それでもやっぱりインド人。あらかじめ席が決まっている飛行機でもボートでも、どうしたってできるだけ早く乗り込み、誰よりも先に外の空気に触れたいらしい。

ただ、最近インド本土を旅行してきたほかのバックパッカーに聞くと、アンダマンはインドではないらしい。20年も経ってあらゆるものが西洋化されつつあるとはいえ、インド本土を回るのは未だにちょっとばかしハードなようだ・・・コツをつかむまでは。
が、今回私たちはアンダマン諸島に焦点を当てている。「インドへ」と気張っていたけれど、思っていたよりもちょっぴりのんびりできそうだ。



Port Blairでは1泊。ここは大きな町だとわかっていたので、できるだけ早くほかの島に移動することに決めていた。とは言え、この町で移動のチケットも取らなくてはいけないし、両替も済ませておいたほうがいい。
去年のインド通貨の混乱は治まってはいるものの、空港・銀行などの両替所ではいまだに一人1週間に70€しか両替できない。正直言って1週間70€というのは旅行者にとってちと無理な話でもあるのだけど、そこは両替商の出番。ただ、為替レートは非常に悪い。離島だから、足元を見られているわけではないのだけど、なんだかやっぱりちょっぴり悔しい。

しかーし。ボートのチケットはあっけないくらい簡単に取れた。インターネット上では数日後まで全チケット売り切れ、と出ていたものの、これは公共のフェリーの話らしく、ほかにもいくつかボートを運航している会社があるとのこと。リキシャの運転手にHavelock行きのボートチケットが買いたい旨を伝えると、はいよー、ってな勢いでオフィスに連れて行ってくれた。パスポートとビザを確認して、はい、っと翌日のチケットはすんなり手に入った。

なんだ、なんだ、これは。私が気合を入れていたのは何だったんだ。私の緊張を全く知らないWolleは当たり前のような顔をして翌日分のチケットをリュックサックにしまっている。なんだかひとり空回りだ。


Havelockはアンダマン諸島の中でも比較的リゾート地化されており、外国人、インド人問わず旅行者が多い町だ。飛行機を降りたPortBlairからフェリーで1時間半ほど。フェリーはチケットを買った時点でクラスも座席も決まっており、二人で3席占領、なんてことはできない代わりに満席だから床に座って1時間半、なんてこともない。


ところがこの町、私たちが想像をしていたよりもずっと発展しており、大きなリゾートもズドンズドンとビーチ沿いに乱立している。実際その手の大きなリゾートにはインド人ばかりが泊まり・・・地元の人曰く、彼らは1泊か長くて2泊ぐらいしか滞在しないらしい・・・外国人はできるだけ安いバンガローに泊まっている。
私たちが選んだのはほかの外国人旅行者と同じくビーチNo.5の安めのバンガロー。ビーチまで数10m、間にはヤシの木が並ぶ。



このHavelock。町の雰囲気や人の量はともかくとして、ビーチは「これほどに!」と嘆息するほどきれいだった。
最近、たいていのリゾート地では20年前くらいの写真を使って宣伝している地域が多く、行ってみてがっかりというのが大半。が、ここでは久しぶりにビーチに斜めに生えるヤシの木を見た。これ、何でもないようで現在実際にそういうヤシの木を見ることはまれ。


私たちはここで5日を過ごし、さらに情報の少ないNeil Islandに向かう。
この島、名前すらアンダマンに入ってから初めて聞いた。地元の人たちと話しているときに2回ほど「Nei Islandは静かでいいよ」と。
地元の人が言うからには、と期待しつつ・・・。



Port Barton ~ポートバートン~








※この記事はインターネットの接続状況上大幅に遅れてアップデートしました。記事の内容は「ElNido」の前のものです。



さてさて待ちに待ったPort BartonWolleが何をどう調べたのかわからないけれど、気に入ればここに3週間そのまま滞在する予定。何があるのか、何がないのかお楽しみ。

最初に言ってしまおう。ここは驚きのがっかりだった。おそらく、多少未開だということを聞きつけた若い旅行者が集まりすぎて、中途半端に旅行者ずれしてしまっている感がある。


と、まぁ、最初にネガティブに出ておいて、いいところもいっぱいあった。初日にざっとうろついたときのがっかりは徐々に薄れ、それなりに何日か楽しんだ。
ただ、小さな村なので、できることが限られている。10年後には逆の方向に驚くような変化をしているかもしれないけれど、今のところアクティビティと呼べるのはアイランドホッピングだけ。村の近くのいくつかの島をツアーで回る。これはここに来た旅行者のほとんどが参加しているようにも見える。

私たちはツアーに参加しない代わりに、半日カヤックで近くの島やサンドバンクなどに行ってみた。

Port Bartonのビーチは砂が白くない。湾内は水底がずっと砂地だそうで、波を沖合で砕くリーフがない。そのためにビーチに寄せる波は比較的高く、砂にまかれている。トロピカルなイメージのささぁー、っという音の波ではない。砂が巻かれているせいか、水底の構成物のせいか湾内の水は比較的濁っている。透明度ほぼゼロだ。
それが湾内からちょっぴり出るだけで、透明度が極端に上がる。ポラロイドのサングラスをかけていれば、おそらく10mくらいはのぞける。そしてほかの小さな島に近づくにつれそれがどんどんよくなる。

カヤックから水中に入って戻るのをWolleが嫌がるため、スノーケリングはしなかったけれど、上から見ているだけでご機嫌になるくらい。
どうやら、湾の外側にあるいくつかの島の周りには小ぶりのリーフがあるようで、カメなどもみられる。それを追いかけて触れる、というのが売りのツアーもどうかと思うけど、少なくともダイビングも悪くなさそう。


ダイビングは、話を聞きに行ったら、この業界では珍しく、恐ろしいほど非友好的なドイツ人のおばあちゃんがあまりにもネガティブなことばかり言うので行くのが嫌になって行かなかった。接客は大事ですねー。ちょっとでもダイビングに行こうという気がなくて話していたらきっとけんかになっていたと思う。ただしこのおばあちゃん男性が出てきた途端に態度がおおはばに緩和される。


ここPort Bartonで一番良かったところ。White Beach

Port Bartonのビーチからジャングルとマングローブの水辺を歩くこと1時間。ぽつんと一つある日本人経営のリゾートがあるビーチ。入浜量も20ペソかかるだけあって手入れも行き届いているし、リゾートにあるレストランや売店で食べ物、飲み物も買うことができる。
確かにここはWhite Beach。砂が白い。・・・と、ちょっと待って。もしかしたらPort Bartonのビーチは幅が狭くていつも濡れてるから白く見えないんじゃないの。あそこも砂が乾けばこれくらい白くなるんじゃないだろうか。
ただ、ビーチ沿いのバンガローやレストランが土地の浸食を阻止するために自分の土地の境界にコンクリートを打ってしまっているからどんどんビーチの幅が狭くなる。満潮になると水はコンクリートを打つ。今ですら満潮の時にはぬれずに歩くスペースはほとんどない。これは時間の問題だ。いずれビーチはなくなる。

White Beachでスノーケリングもしてみた。が、これはびっくり。ビーチから見ると柔らかそうな透明感のある水色なのに、水中をのぞくと自分の伸ばした腕の先にあるはずの手すら見えない。魚もいるのかもしれないけど全然見えない。魚が私の手の届く範囲に自ら近づいてくるわけはないから当たり前だけど。

Port Bartonがよかったらそこで3週間、という計画はさっさと断念。これならほかにもっといいところがあるはず、ということで次に目指すはEl Nido

El Nidoまではこれまたバスで3時間ほど。さて、次はどんなところなんだろう。

ジュゴンに会いに行く



フィリピンのパラワンと言えば「ジュゴンに会えるところ」というイメージを持っているダイバーがたくさんいる。
かくいう私は知り合いのダイバーに聞くまで知らなかったけれど、確かにインターネットを検索するとジュゴンの写真がやたらと使われている。

エルニドでダイビングに行ったとき、ショップのスタッフに聞いてみた。この辺でジュゴンは見られるの?最近インストラクターになったばかりというオーナーのマリオはきょとんとした顔をする。「ジュゴンって何?」
ジュゴンって何、って…。ほら、海にすむ哺乳類の・・・。あ、そうか。ジュゴンって英語じゃない。ジュゴンって英語でなんて言うんだっけ?Sealionじゃなくて・・・あ、そうそう、Seacow
「え?この辺でSeacowが見られるの?」とマリオ。
こらこら、私に聞くな。私はこの海では初心者なんだから。
でも、インターネットや知り合いの話をすると、エルニドで10年近くダイブマスターをしているランスを呼んでくれる。ランス曰く、5年近く前に一度だけ見たことがあるという。Mmmmm・・・・。5年前に一度、ということはこの辺りはジュゴンが見られるエリアには入っていないことになる。


次に移動したBusanga島のCoronでは、第二次大戦の日本軍の沈船の話ばかりでジュゴンのジュの字も耳にしなかった。

あれあれ。パラワンをうろつく理由の一つにジュゴンが入っていたんだけど、これは無理なのかな。なんて思いつつあきらめきれずになかなかつながらないインターネットで検索。
すると、Busuanga島の北西あたりにジュゴンを見るダイビングツアーを売りにしているエリアがあった。
同じ島のCoronからバスで34時間。Cheeyというエリアらしい。観光用のバスはなし。行くとしたらプライベートでバスを予約するか、公共のバスを使う。

おんぼろバスが数台いつも固まっているな、なんて思っていたマーケットわきの空き地・・・実はここがバスターミナルだった・・・から1日に1Cheey行きのバスがあるという。出発時間は誰に聞いてもまちまち・・・。朝6時だというものもいれば夕方だというものまで、いったい何を根拠に答えてくれているのかわからない。結局そのあたりに止まっているバスの留守をしていると思われる若い男の子の情報が一番詳細だったため、彼の意見を参考にすることにした。出発は10時半から11時半。バスの名前は・・・忘れちゃったけど、バスの名前まであった。

ほかのバスを見る限り、特に座席があるわけでもなく、物資の供給バスに人間が同乗しているように見える。屋根の上にまで…。おそらく私たちのバスもこんな感じだろうとあたりをつけて、翌日ごく早めに9時ごろにバスターミナルに行ってみる。

バスはもうすでに止まっており、数人の人がバスの周りにいる。
 CheeySand Castleという宿まで行きたい旨を告げるとドライバーか車掌さんらしきおじさんはとてもフレンドリーに対応してくれる。荷物ごとバスに乗り込んでみると、なんと車内の両サイドにベンチもついている。

 10時半を過ぎるころにはほかのバスとたがわず物資と人間と73くらいの割合で積み込み、乗り込み、出発。
途中通り過ぎる空港以降はアップダウンの激しい砂利道・・・前方を見てこのバスがこの重量であの坂を?と思われるところもゆっくりだが確実に超え、私たちは目的の宿に降ろされる。



ビーチ沿いにあるその宿はリゾートというにはあまりにシンプルだけど、ほかに言葉もみつからないような形容しがたい宿泊施設。だけど、ガラスすら使っていない純粋に竹を組み合わせただけの、それでも素敵なバンガロー。目の前にあるビーチにはジュゴンが好んで食べる海藻が波で打ち上げられてガサゴソしている。


さっそくそのあたりで唯一のダイブセンターに行くと、ラッキーなことに翌日ジュゴンダイブのリクエストがあるという。3つほどのリゾートからのみダイバーを集めているそのダイブセンターでは、日によってダイバーのリクエストによって行き先が違う。そして、遠方のダイブサイト、例えばジュゴンのいるエリアに行く場合には最低人数4人が集まらないとボートが出ないという。Lucky me‼ 翌日はジュゴンだ。



予定では2本のダイブとシュノーケリング。ジュゴンダイブなんて特別な名前はついているけれど、要するにジュゴンの出現頻度が高いところにボートを泊めて待つだけ。この業界で働いている私にとっては正直言ってかなりクオリティの低いダイビングオペレーションだった。システムしかり、ガイドしかり。

が、1本目の最後にとうとうジュゴン出現。水中ですでに45分ほど、ただきょろきょろしながら泳いだ時で、その瞬間私は目の前をくねくね泳ぐ小さな黄色い魚に注目していた。・・・何も見ずにただ泳いでいることに飽きていた・・・しかも結構なスピードで・・・。
ガイドもこのダイブではあきらめていたと見えて、すでに私たちはスタート地点のボートの下に戻ってきていた。
確か、ガイドがダイブ前のブリーフィングで、ジュゴンはボートのアンカーロープまで来て体をロープにこすりつけ、体表の寄生虫を取る、って言ってた。まさにそれだ。
なぁんだ。そんなに頻繁に来るなら、最初からそこで待ってればいいのに。でも、きっと水中の一か所でお客さんのダイバーをじっと待たせると、クレームも来るんだろうな、と思う。だから意味もなくくるくる泳ぎ回ってたんだろう。
いや、あるいは、これだけ泳ぎ回ったからジュゴンとの遭遇がこれほど感動的だったのか…?

ジュゴンは水中の大きな生物の特徴のようなゆっくりとした動きでロープに近づく。そして体をゆっくり回転させながらピンと張ったアンカーロープにまとわりついている。
ロープの下に回って、胸の両方のひれを使ってロープを抱きしめるような姿勢になった。まるでスローモーションを見ているみたい。そしてなんと愛くるしい。かわいいなんていう言葉じゃ形容しきれない。しかもジュゴンの顔ときたらいつでも笑っているように見えるんだからなおさら。
両のひれがその胸で交差されている。その間にあるロープにほおずりをしている。気持ちよさそうに。なんだかうれしそうに。
カメラを持っているのもすっかり忘れて見とれてしまう。
と、ジュゴンはついっとロープを離れてグループ4人の一番隅にいる私のほうに向かってくるではないか。・・・笑いながら。
おお!写真!写真!


ジュゴンはダイバーのはいているフィンに寄ってくると聞く。あるいは、ダイバーをほかのジュゴンと間違えて交尾しようとするとも。
とにかく動かないでじっとしていれば、驚かせて逃げてしまうこともない。
いずれにせよ、私は呼吸するのも忘れていたと思う。水中生物に寄ってきてほしい時の習慣で息を止めていたかもしれない。真上を泳ぐジュゴンの写真にも吐き出した泡が写ってない。

いや、こんなに魅力的なダイブは久しぶりだ。そういえば初めてマンタを見た時も、ジンベエを追いかけた時もこんな高揚感があった記憶もあるけど、もうはるか遠い昔の話だ。45分も競争のように泳ぎ回ってできたフィンずれの痛みなんかとっくに吹き飛んでる。

私のジュゴンは・・・もとい、私の遭遇したジュゴンは2.5mくらい。たぶんそんなに大きいほうじゃないと思う。しかも若い・・・これは肌の見た感じで。


この日の残り、私は半日、超ド級のご機嫌だった。ジュゴンを見ていたのはたったの数分なのにまるで1日中ジュゴンが目の前を泳いでいたかのような気分。頭の中ではロープを抱きしめてほおずりする姿が何度もくるくるする。

ここまで来てよかったー。Coronであきらめないでよかったー。そして、ガイド曰く毎回会えるわけじゃないジュゴンが会いに来てくれてよかったー。
久しぶりにダイビング後もワクワクが止まりませんでした。