2011/10/02

小説 「私を離さないで」 カズオ・イシグロ

この本もうちの階段文庫で見つけました。

少し前に映画にもなった作品です。
作者はカズオ・イシグロ。
名前の通り日本人ですが、小さなころから英国に住んでいて、小説は英語で書かれています。
この本以外にもたくさん書いているんですが、特に有名なのはブッカー賞を取っている「日の名残り」。この作品も映画化されていて、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンが演じています。

今回の「私を離さないで」。
母曰く「ちょっと重い作品よ。」
確かに根底に流れているものはとても重たい課題だと思う。ただ、読者にはその課題がなかなか明確に明かされない。

主人公たちが成長過程で自分たちの運命を少しずつ受け入れていく。そのスピードと同じスピードで読者も彼らの運命を把握していく、そんな書き方がしてある。
「そんな書き方がしてある」なんて、簡単な言葉で言ってしまったいるけれど、これを故意的に表現したイシグロさんの筆の力に感嘆する。
ちょっと間違えれば、読者には何を言っているのか通じなくなってしまう。きわどい線上をたどっているような書き方だ。

そしてこの課題、あるいは運命。最後まで一言も明確には書かれていない。
もしかして、私が読みすごしてしまったのかと思い、何度もページを戻った。でも、どこにも書いてない。

「クローン」「臓器提供」「人権」等々。
これらの言葉を聞いただけで興味深い内容だ。
でも小説の中ではこれらの言葉が使われることはない。これらの言葉を使わずして、これらを主題にしている。
そして、作者自身が一体どういう意見を持っているのかすら、よくわからない。
小説という形で、ある仮定を定義し、差し出されている。

そんな小難しいことを考えずに読み進めるだけでもいい作品だ。翻訳された作品だから、この小説の日本語の中には土屋さんという翻訳家の言葉がたくさん入っていると思う。
でも、語りかけるような口調と、包み込まれるような優しさと同時に悲しみがとてもよく伝わってくる。

時間があれば映画も見てみたいとは思っている。ただ日本で映画をレンタルするときには「笑えるもの」とう条件付なので、ちょっと難しいかなぁ。

 映画に興味のある方へ。
映画「私を離さないで」公式サイト


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