2008/11/25

フィッシングトーナメント

 空と海の間にある水平線が直線ではないことを再認識している。はるか遠くに見えるプーケットの島影と水平線の間で、立っている二本の足で波の動きを感じる。ボートのスピードのせいで凪いだ日でもどこからか風を感じる。
 
 太陽が真上から照りつける船上に突然ホイッスルが響き渡る。魚が掛かった合図だ。緩んでいた時間が合図と同時に張りつめる。ボートの速度が落ちる。船上がいっせいに動き始める。

 魚の掛かった竿につくのは最初はひとり。ほかの全員は水面に繰り出してあるラインを戻す。アウトリガー、ダウンリガーを含め、竿は全部で11本。ほかに仕掛けも出してある。

 リールを巻く腕がもどかしい。「そっちじゃない、こっちが先だ。」「ガフを用意しろ。」大声がいくつも飛び交う。そんなころにはすでに掛かっている魚が推測できている。これは大きなシイラだ。「ファイティングベルトをつけろ!」男性にとってはファイティングシートよりもベルトのほうがコントロールしやすい。


 シイラはなかなかのファイターだ。大きいものになると大柄の男性でも引き寄せるのに時間が掛かる。   
 魚が体をくねらせ、水面から躍り出るたびに、鮮やかな黄緑色の体が太陽の光に反射してきらめく。シイラの一番美しい瞬間だ。

 
 暴れるようなら泳がせて。魚が力を抜いたときに巻いて。タイミングを合わせて全身で格闘する。一度に巻けるラインは長くて数メートル。
 まだか。まだか。
 まだだ。まだだ。まだだ。

 ゆっくりと、だが確実にラインは短くなっていく。船尾で波に足を洗われながらガフを構える。最後の瞬間が近づく。ファイティングベルトをしている後ろから、いつでもベルトを引っ張れるようにひとりが構えている。ひとりはガフを構える後ろから、ボートから転落しないように支える用意をしている。全員が息を呑んでいる。最後の瞬間に大物を逃すほど悔しいことはない。

 全員の目が船尾近くを縦に横に泳ぎ回るシイラに注がれている。船上を更なる緊張感が支配する。逃すな。ラインが手の届くところまで近づく。
 片手でラインを引き寄せながら、柔らかい腹を狙ってガフを食い込ませる。同時に勢いよく船上にすくい上げる。船上に歓声が上がる。

 釣れた。

 自分の意とそぐわない状況を振り払おうとするかのように魚は暴れる。ガフが食い込んだままの体をばたつかせるシイラの頭部を棍棒でたたく。タン。タン。気絶したシイラはやっとおとなしくなった。

 鰓に指を差し込み、のどに食い込んだフックをはずす。興奮と感嘆のため息の中、魚はアイスボックスの中に放り込まれる。

 シイラは興奮しているとき、体が黄色と緑色に変わる。釣り上げて20分もすれば元のグレーに戻ってしまうこの体色は自然しか造り得ないだろうと思われるほど美しい。

 このシイラは2007年プーケット、シャロンにおけるインターナショナル・フィッシング・トーナメントの初日、参加した全ボート中最大のシイラだった。



今年もElectric Blue はトーナメントに参加する。
どんなトーナメントになるんだろう。

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