2012/04/09

Tec 40  ~テクニカルダイビング~

日本に帰ってくる直前にちょっとめずらし目のコースを取った。

数年前まで「テクニカルダイビング」といったら、コース料金も高いし、時間も掛かるし、とにかく敷居が高かった。
Tec Deepと呼ばれていたそのコースが今では3段階に分かれている。

Tec 40 /Tec 45 /Tec50だ。
この数字はこのコースでの最大深度を表す。

今回私が取ったのはTec 40。
テクニカルダイビングの最初のコースだ。

ピピに時々バイト(?)に来る日本人の男の子がこのテクニカルダイビングに興味を持っていた。
それをテクニカルダイビングインストラクターでもあるPhilに話してみると、「お前が通訳で一緒に取るなら。」という半分条件のような形でコースが始まった。
通訳とは言っても、私も一緒にコースを取るんだから、一緒に勉強しなくちゃいけない。

ところが、実際は私がほかの仕事に忙しすぎて、彼は自分ひとりですいすいと学科を終わらせてしまった。
な~んだ、私なんかいらなかったじゃ~ん。
って、ところだけど、せっかく一緒にとってもいいって言ってくれてるんだから、そのまま続けた。

今私が教えることの出来るコースはほとんどが「レクリエーショナル・ダイビング」のコース。
テクニカルダイビングとレクリエーショナルダイビングの違いは、一言で言うととてもシンプル。

レクリエーショナルダイビングは、普段ダイブ中に体内に蓄積される窒素の量が一定量に達する前にダイブを終了する。

テクニカルダイビングは、それを一定量以上溜め・・・要するに深いところにより長く潜り・・・その窒素を体外に排出する作業を行いながら浮上してくる、というもの。

通常よりも深く、長く潜り、そして窒素排出の作業をする。
そのために、一般には背中に1本だけ背負っているタンクが2本になり、さらに体の前面に窒素排出作業用のタンクを1本。
要は2本以上のタンクを持って水中に入る。

よく言われることだけれど、インストラクターレベルのダイバーでも、背負っているタンクが2本になったとたん水中でバランスが崩れる、という。


さて、学科は試験も含めギリギリだけど合格。
「自分の第一言語じゃない言語で、よくがんばりました。」
こんなお言葉をいただくとは・・・・おそらくおまけしてもらってるんだろう・・・ははは。

この学科で、すでにコースを取っている私たちはのけぞるような内容に出会ってる。
すでにレクリエーショナル・ダイビングの常識をひっくり返されたような気分。
新しいことが続々と出てくる。

ふたりで
「これはオープンウォーターコースを取っているみたいだね。」なんて話が出た。

私たちが普段当たり前のように教えているレクリエーショナルダイビングのコースの受講者たちは、こんな風に感じるんじゃないかと思う。
これは自分が教えているコースや教える態度を見直すいい経験だ。

さて、器材の組み立て。
タンクを2本背中に持つということは、もちろんテクニカルダイビング用に特別な器材がある。

「お前にはこの器材、大きすぎるかもしれない。」なんていわれながら、実際に組み立てるときにサイズを最小限にまで調節した。
試しに着てみると・・・確かにアジャスターなんかも一番隅っこまで調節して、どうにか「大きすぎはしない」というところ。

通常使用する12Lタンクも「お前どうせそんなに空気使わないんだから、10Lにしてやろうか?」って言われたけど、なんだか面白くないのでそのまま12Lを使うことに・・・。
こういうとき「お前は小さいから・・・。」って言われると面白くないのは私の性分だろうか・・・。
日本にいれば私は標準サイズなのに、日本以外ではたいていちびっ子扱いされる。これは大変面白くない。
みんなが手を貸してくれようとしていることはわかってるんだけどね。

でも確かにこの器材はとてつもなく重い。
タンク一本12キロと考えると、12Lx2で24キロ。
組み立てる器材だけで、10キロ以上。
前に持つタンクが10Lで10キロとしても、これだけですでに44キロ。
それ以外に予備のナイフ、トーチ、フロート・・・とおそらく50キロ近くになってると思う。

一緒にコースを取った彼は山に登る人なので
「うん、これくらいやったら問題ない」だって。
いいですなぁ、男の人は、力があって・・・。

こういうときにはホントうらやましい。

さて、私が背負うとこうなる。
 この状態で背筋を伸ばすのは不可能。きっと後ろにひっくり返る。

 テクニカルダイバーに女性がほとんどいないのも納得できる。
私がこの仕事をしていなければ、これを背負って床から立ち上がることは不可能だと思う。

なにしろ、この器材の背負う部分だけを腕で持ち上げてベンチに乗せることすら出来ない。 仕方がないから、床から足の力で立ち上がっている。
その方が大変だ、っていわれても、それしか方法が見つからないんだから仕方ない。

初日はこの状態でフィンをはくのすら大仰だった。


さて、水中。
プランをざっと聞いて、飛び込む。

この器材。ウェイトは含まれていない。
それでも、普段よりずっとネガティブな浮力。何もしなければずんずんと怖いほど沈む。
普段エキストラのウェイトを3キロ近く持っている私でも、ここまでネガティブになると少し怖いくらい。
ただ、それように作られたBCD(浮力を調節する器材)なのでコントロールはしやすい。

しかもやっぱり。
バランスが取りにくい、というよりも頭がウィング(BCDの空気が入る部分)にぶつかって泳いでいるときに正面が見えない。
すると、当然足が下がる・・・。と、自然泳ぎにくい・・・。
体勢を立て直そうとするとぐらぐらする。
 「これね。よく言うインストラクターでも・・・って言うやつは。」

さらに水中では緊急用のスキルが待っていた。

まずはエア切れの練習。
自分でまずは右のタンクを閉めて、エア切れサインを出して、予備のセカンドステージにくわえなおす。今閉じたバルブを開けておいてから、今度は左のタンクを閉める。又エア切れ。元のセカンドステージへ・・・。そしてさっき閉めた左のタンクを開ける。

これ、自分の背中についてるバルブの開閉なので、肩が硬い人には届かないんじゃないの?
っていう質問を後からしてみたら、
「そういう人はテックをやるな。」
だそうだ。
体が小さすぎて手が届かない人もできないそうだ。

バランスを取りながら泳ぐ。

前を泳いでいたPhilがくるっとこっちを向いたと思ったら、私の予備のセカンドステージに手を差し出して、パージボタンを押し出した。
えぇ~~!
こんな急に緊急スキルの練習??

壊れたレギュレーターがついてるタンクから先に吸わなくちゃいけないんだから・・・。
なんて大慌てでフリーフローしてるセカンドステージにくわえなおそうとする・・・。
いや、そんな訳ない。
こんなものから呼吸したら肺の過膨張が起こる。
それはファーストステージの故障のときだ。
え?え??
あ!タンク閉めるんだ。 この空気、どのタンクから出てるんだっけ??
左だ!
あわてて背中についてる左のタンクのバルブを閉める。
止まった・・・。当たり前だけど。

はぁ、すごい量の空気を無駄にしたよね、今。


しばらく泳いでいると、気づいたらPhilが私のすぐそばにいる。

ふざけてるのかと思って押し返しながら笑ってたら、ぎょ
空気が吸えない。
ふざけているんだと思ってたら、どうやら私が空気を吸っているタンクのバルブを閉じた様子・・。
急いで予備のレギュレーターに切り替える。


mmmmm・・・・。
手ごわいな、このコース。レクリエーショナルダイビングのコース中に、立てる深さ以深でタンクを閉めるなんてありえない。
Philが近づいてきたら要注意だ。

でも、どうして私ばっかり練習なのよっ!
って、思ってたら、安全停止中にもう一人の彼のレギュレーターもフリーフローされてた。

もうダイブの最後だと思って、気を抜いていたときだったらしい。普段比較的冷静な彼も大慌てだった・・・。

そんなこんなで、最後のダイブは40mへ。
「何処でもいいから40m取れるところまでつれてけ。」
という指示。
40mねぇ。まぁ、こっちのほうに泳いでいけばそのうち40mまで行くでしょ。

結局37mで小さなリーフを発見。
サンゴがどっさりではないけど、いいじゃない?
なんて思っていたら、今までピピ島周辺では見たこともないほど大きなマダラエイがリーフの周りをぐるぐる泳ぎ回ってる。

これは素敵だ。
こんな巨大なのがこの辺りにいるなんて。
3人でエイをじっくり堪能した。


その日の夜はもちろんお祝い。
 コース終了のお祝いに、マスククリア。
大き目のマスクの中にビールを流し込んで、鼻から飲む。
注:よい子はまねしないでください。

ちなみに私は通訳なのでこういうお祝いはしません。

このコース、新しい事だらけで本当に楽しかった。
おそらく通訳なしでも彼ならいけたと思うけど、便乗させてもらってありがとう。

次はTec 45。
どんなコースなのか今から楽しみ。

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